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花待つ頃の備忘録 ③ Y新聞のキャンペーンに [生活エッセイ]

 3月9日の日曜日だったと思う。玄関のチャイムが鳴った。例によって宅配便かと思って判子を持って急いで出たらそうではなかった。中年男性が二人、一人はビニール袋に入った新聞を手に持って、もう一人はスーツ姿で立っていた。
「Y新聞ですが、昨日無料紙を郵便受けに入れさせていただいたのですが、今年Y新聞は創刊140周年で記念キャンペーンをやっているんですよ。それで、あと一週間無料で新聞をお届けできるので、ご覧いただけたらと思ってお邪魔したのですが、いかがでしょう?」
「いやあ、家はみんな忙しくて、新聞をとっても読まないままチリ紙交換に出してしまうことが多いんですよ。それでとらないことにしているんですよ。折角ですけど…。」
「いえ、とるとらないはいいんですよ。とっていただかなくても構わないので、無料の間だけ、最近のY新聞がどんなものか見ていただければ結構なんですよ。いかがでしょうか?」
〈無料で置いていって、その後とらなくてもよいというのでは、なかなか断りようがないなあ、体よく断ろうかと思ったんだけど…じゃあ仕方ないか、言ってしまうか…〉
「今、政治が少しおかしな方向に行っているじゃないですか。特定秘密保護法を作ったり、憲法改正なんかしなくても集団的自衛権は行使できるとして閣議で決めてしまおうとしたり…。この間、土曜の朝のテレビ番組でそのことを採り上げていたので見ていたら、シンボウさんとかハシモトゴロウさんとか、それからたぶん経済界の人だと思うけどゲストの人とかも、盛んに、『米軍と一緒に行動していて、米軍が攻撃を受けたときに何もしてやれないなんていう状況は早く改善しなければならない』って、当然のことのように言っているんですよ。そういう説に異論を唱える人は出ていない。あれっ、これは集団的自衛権行使のキャンペーン番組じゃないかなって、思っちゃいましたよ。そういう状況だけを想定して、それで『これでは対等の同盟関係ではないから、早く、対等に支援し合える(軍事行動が取れる)関係になるべきだ』そういう次元の問題にしてしまっていいんですかね。日本は戦争に懲りて、戦争はしないって宣言している国なんですよ。アメリカとは根本的に違うんですよ、お国柄が。どうも、NテレとY新聞さんは(それからS新聞も)政府の方針に乗り過ぎて、世論を危険な方向に煽っているような気がして仕方ないんですよ。」
「はあ、はあ。でも、読んでいただいて、そういった意見を聞かせていただければ、それはそれでありがたいんですから…」
「まあ、そういう訳なんで、今の報道姿勢では、とる気も見る気も湧かないんで、申し訳ないけど、家は結構ですから。なんと言ってもY新聞さんは影響力が一番大きいのだから、日本をミスリードしないよう、いい方向に導いてくれるよう、よろしくお願いしますよ。」
 訪問宅で、逆に変なお願いをされ、でもあの人たちも、幾分そんな後ろめたい気持ちもあったのだろう、何を言い返すでもなく、
「わかりました。こんなご意見をいただいたということで、社に帰ったら報告させていただきます。」
「私も、ジャイアンツファンですから、応援していますから…」
「そうですか、ありがとうございます。」
 と、まあ、円満にお断りすることができたのだった。


 


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