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第7話 『一隅の管見』の隅 [読書感想]

 読書感想記が続く。先日、近くの大学で工学部の教授をしている友人が、本を一冊届けてくれた。「長年血圧を診てもらっていたかかりつけのドクターが最近出された本」とのこと。『一隅の管見』(桐生タイムス叢書 山本輝通著)とある。
 
山本先生は大変ユニークな方で、内科医をする傍ら、法律をはじめ、様々なことに造詣が深く、診療に行くと色々な話をしてくれたという。その先生が何度も校正をして、間違いは一箇所きりだという本なので、ぜひ誤植を見つけて知らせてやりたいと、友人は言う。
 
何? 間違い探し? そう言われると、この間までエッセイ集を編集発行していた(セミ)プロ意識がムクムクと頭をもたげる。
 
私は自分の文章の校正にはとんと自信が持てないのだが、他人の書いたものとなると、しっかりセンサーが働き出す。4冊目は飛び入りでこの本となった。
 
この本も面白そうなので、内容を紹介しながら、細部の点検作業をしてみよう。
 
ハードカバーの上製本を早速紐解くと、山本先生は一九三〇年生まれ、現在八二才余。約三年半前に診療所を閉じられ、その後、桐生タイムスに毎週一回随筆を寄稿。本書はそれをまとめたものとのこと。
 
第一部の「はじめに―恩返しする気持ち」に診療所を予定より早く閉じた理由が書かれている。
「数年前から医療をめぐる環境は年ごとに悪化し、このままでは良心的な医療は不可能と考え、社会に一石を投じるつもりで実行した。」また「第一線の臨床医は、眼前の患者さんだけに目を奪われ、その治療に専念するのに精一杯で、医療制度にまで深く考えるゆとりがないのを反省すべきではないか。」と、同僚医師を叱咤激励している。のっけから(社会)正義感の強さが表れていて気持ちが良い。
 だが、この最初の作品に、早速気になる箇所が出てしまった。
「そもそも、医師を職業として選んだ理由は、社会的地位が高いとか、経済的に恵まれているからではなく、病人を助けたい、社会に貢献したいなどの理想と希望を抱いて、医学部に進学したのだろう。」意味はよくわかるし、気にならない人も多いと思うが、ゆっくり読んでいると、こういう文が気になってしまう。ではどうならすんなり読めるか。
「そもそも、医師を職業として選んだ理由は、社会的地位が高いからとか、経済的に恵まれているからとかではなく、病人を助けたい、社会に貢献したいなどの理想と希望を抱いたからであろう。」
 また、この作品末尾の文も手を加えたくなり、これは前途多難かなとちょっと心配になったが、以降は大変しっかりした文で、構造上問題になる文はほとんどなかった。
 第2話(原典に序数は付されていない。筆者が便宜上付けている。)は「新型インフルエンザ」である。
「接種医療機関には、群馬県保険予防課から頻繁に書類が郵送されてくる。全部読み終えないうちに、次の冊子が届くことさえある。それが文字どおり朝令暮改で、中には矛盾する内容さえある。」よくわからないことを、行政が責任を逃れながら管理・指導しているいい加減さが、句点を含め、まったく問題なく書かれている。
 第3話から第5話までは「死亡診断書・その1~その3」である。戸籍や死亡診断書の様式にまつわる細かな話が書かれている。山本先生の関心を法律に向けるきっかけとなった出来事と思われる。「校正係」気付くところナシ。
 第6話は「駅の放送」。駅のプラットホームに電車が入ってくるとき、「列車が参ります。危ないですから黄色い線の内側に下がってお待ちください。」耳慣れた放送だが、通過する電車も停車する電車と区別なく同じ放送が流れていて危険なので、関係者に改善を求め、それが実現したお話。校正係出番ナシ。
 
第7~9話は「戸籍 その1~3」。「その1」は戦死として抹消された兄の戸籍が復活したお話。「その2」は先生の次男の母の名が間違っていて訂正したお話。間違いの原因は「ミ」が「シ」と誤記されたため。しっかり区別・判別しないといけない。校正係としてはいずれも出番ナシ。「その3」は生年月日訂正のお話。校正係、出かかるが引っ込む。
 第10話は「確定申告」。昨年分の収支を報告するのに、昨年を本年と称する矛盾に噛み付く。出番ナシ。
 
11話は「若干と弱冠」。ジャッカンにまつわるお話。出番ナシ。
 
12話は「広辞苑」。広辞苑の版による違いについてのお話。ところで、先生は「広辞苑段位認定委員会から最高位十段の免許をいただい」ているそうな。さすがだ。当然、出番ナシ。
 
13話は「品格・品位」。桐生市に品格を求めたいというお話。「決定していただきたい」という謙譲表現が少し気になる。「して欲しい」が良いのでは?
 
1416話は「郵便料金」。切手を貼ったら重量超過になった! など興味深いお話。いずれも出番ナシ。
 
17話は「懲役」。後期高齢者医療制度の被保険者証の裏面に「不正にこの証を使用した者は、刑法により詐欺罪として懲役の処分を受けます」と記されているが、違反者の処罰を決めるのは司法の役割なのだから、被保険者を恫喝するような表現は改めよ、と迫る。先生は、市民・弱者の味方で心強い。出番ナシ。
 
18話は「中通り大橋」。橋についての雑学の極み。八さん熊さんの話なので、あるいは冗談なのかもしれない。面白いお話。出番ナシ。
 
19話は「郵便小包 その1」。公立高校入試問題に違法な話が載っていて、これを指摘。県教委が白旗を揚げたお話。「今年の年賀はがきにある元局長が~」「今年の年賀はがきに、ある元局長が~」のほうが読みやすい。
 
20話は「郵便小包 その2」。今度はNHKが無条件降伏。「現在はいれてもよいと受け取られがちだが」は「現在は入れてもよいと~」である。また、これは内容についてだが、「前回の入試問題は関係者が数人…だが、~」とあるが、入試問題も実は関係者が大変多い。受験した生徒はもとより、その後、過去問題として県内外で大勢の生徒の教材となるのだから。
 
21話は「東武鉄道」。県作成の英文地図に誤りを発見。東武鉄道社長から感謝状が届いたお話。出番ナシ。
 
22話は「東京電力」。独占企業が「毎度お引き立てに預かり~」は可笑しいだろう、というごもっともなお話。出番ナシ。
 
この辺で校正作業レポートと御本の紹介は止めようと思う。作業自体は終わりまで続け、あと十箇所程度、著者と相談したい場所を見つけ、友人に報告したが、いずれも重箱の隅っこである。タイトルが『一隅の管見』なので、「一隅のさらに隅」である。しかしなるべく誤り少なく、また読みやすいほうが良いので、校正係はやるのである。
 
お話は、数えて百個載っている。先生は身体のドクターであったばかりか、社会のドクターでも居られる。ますます、お元気で、政治・行政・巷の出来事に眼を光らせ、国を、地方を、そして我々庶民を導いていただきたい。
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